東京セイントアカデミー合唱団 Summer Concert
'98
1998年7月4日―東京オペラシティ・リサイタルホール
演奏曲目と曲会紹介
1) Music of Stephen Foster (フォスター作品集)
arr. Roger Wagner
Beautiful Dreamer
Old Black Joe
Nelly Bly
I Dream of Jeanie
De Camptown Races
Old Folks at Home
米国中東部ピッツバーグに生まれ育ったフォスター(1826-1864)は、アイルランド系の血を引き、幼少には黒人教会で賛美歌を聞くことが大好きでした。
23才で作曲した"Nelly Bly"、"De Camptown Races"はニグロ的な影響を受け、後者の歌詞中のDoo-dah!は黒人独特のかけ声です。正規の音楽教育は受けず、独力で欧州の言葉を勉強し、水彩画や詩に熱中しました。彼の作曲はほとんど自作詩によっており、人の心を惹く文才には非凡なものがあります。英国民謡と黒人霊歌の融合とも言える"Old
Folks at Home" の郷愁を誘うメロディーは、多くの国々で歌詞を換えて愛唱されています。28才の時に妻をモチーフにしたロマンチックな"I
Dream of Jeanie"を発表した後、創作力は衰えます。34才で書いた不朽の名作"Old
Black Joe"は往年の若々しい緊張感ある曲とは違い、哀愁・郷愁が感じられます。この後、フォスターは一人家庭を去ってニューヨークで放浪生活に入り、食べるための創作を続けます。38才で亡くなる直前に書かれた"Beautiful
Dreamer"の浮世離れした歌詞は、孤独な作曲家の悟りの境地ではないでしょうか。(Mots)
2) Marienlieder (マリアの歌)
Johannes Brahms
Der englische Gruァ
Marias Kirchgang
Marias Wallfahrt
Der J拡er
Ruf zur Maria
Magdalena
Marias Lob
特に意図したわけではないのですが、今回の演奏会は「素朴」という形容詞
があてはまる曲がそろったようです。
この曲も、Marienlieder(マリアの歌)という題名だけを見ると宗教曲(教会音楽)のようですが、歌詞はおとぎ話的な要素がある民衆伝承のものですし、またメロディーも民謡調(もちろんドイツの)なので、実際はとても素朴な作品といえます。
マリアといえば、まずは聖母マリアのことでしょうが、必ずしも聖書などに則った内容とは限らず、いわば民間信仰的要素も混じり合った「マリアさん」をこの曲では歌っているように思われます。
どの曲も歌詞が2番、3番...と韻を踏みながら続いていくので、ドイツ語を母語としない私たちにとっては歌詞を頭に入れるのが実にたいへんでした。その他いろいろ難所があり、見た目が素朴でも、演奏は決して易しくない、むしろ手強いと感じて練習していますが...
(M.S)
3) Messe in D (ミサ曲ニ長調)
Antonin Dvor_k
Kyrie
Gloria
Credo
Sanctus
Benedictus
Agnus Dei
このミサ曲は、典礼用の宗教音楽ということもあり、「第8交響曲」や「新世界交響曲」のようなドボルザーク特有の土臭さには欠けるものがありますが、メロディーの飾らない美しさが印象深い作品です。
第1曲の"Kyrie"と第2曲"Gloria"はいずれもABA'のサンドイッチのようなしくみで、静と動の対比が効果的です。
第3曲"Credo(私は信じる)" は全曲中の頂点をなす長大な楽章で、まず優美な旋律が流れ、ついで厳粛なユニゾンが続きます。やがて古今の作曲家がミサ曲の作曲で最も腕をふるうイエス・キリストの生誕、受難、復活、昇天を述べる箇所となり、劇的に展開します。そして終末部では、本来の典礼文では省略されている"Credo"という歌詞が繰り返し現われ、ドボルザークの信仰の篤さが偲ばれます。
以下、力強い"Sanctus"、柔和な"Benedictus"と進んで行きます。終曲の"Agnus
Dei"では、緊迫の度が次第に高まりますが、最後にはおだやかな響きで「平和を」と歌い、静かに全曲が閉じられます。
(M.S)